新型コロナウイルスワクチンの副反応の強さと抗体量に関係はあるの?【抗体検査がわかる:第7回】
獲得免疫の仕組み
免疫は、身体の健康を維持するために必要不可欠で大切なシステムです。具体的には、免疫によってウイルスや細菌などの病原体から身体を守ったり、がん細胞や不要な細胞を排除したり、傷ついた組織を治したりしています。免疫は、仕組みによって自然免疫と獲得免疫の2つに分けられます。
自然免疫は生まれつき身体に備わっている仕組みで、身体に侵入した異物に対してすぐに反応します。
一方、獲得免疫は、それぞれの異物に対する攻撃方法を記憶する後天的な仕組みで、同じ病原体が再び身体に侵入したときに、記憶している情報をもとに効果的に病原体を攻撃します。一度かかった病気にかかりにくくなったり、ワクチンで病気の発症や重症化を予防できるのは獲得免疫が正常に働いている証拠です。獲得免疫は適応免疫と呼ばれることもあります。
免疫で働く細胞の役割
自然免疫で働く細胞は、好酸球や好中球、好塩基球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞などです。例えば、自然免疫では、細菌やウイルスなどの病原体を認識すると、マクロファージや好中球などの細胞がすぐに駆け付けて病原体を攻撃し、排除します。
獲得免疫で働く細胞には、T細胞やB細胞があります。
T細胞は、役割によってヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞に分けられます。ヘルパーT細胞には、異物が身体にとって危険か判断し、攻撃の方法を練る司令塔のような役割があります。キラーT細胞は、ヘルパーT細胞の指示を受け、病原体に感染した細胞を攻撃し、破壊します。制御性T細胞は、それぞれの細胞の暴走を抑え、免疫が正常に働くように調整します。
B細胞は、ヘルパーT細胞の指示を受けて形質細胞へと成熟し、異物を攻撃するための抗体を放出します。
新型コロナウイルスワクチンの副反応と抗体量
新型コロナウイルスに対するワクチンを接種すると、新型コロナウイルスに対抗するための抗体が身体の中で産生されます。ワクチン接種によって、十分な量の抗体が身体の中に準備されていれば、高い予防効果があると考えられています。
一方で、新型コロナウイルスに対するワクチン接種後に抗体反応が大きい人ほど、副反応が強く出る傾向があるという報告があります。抗体反応とは、B細胞が産生した抗体が病原体を認識して、毒性を弱める反応です。
アメリカの研究チームが行った研究*1によると、成人928名を対象として、ファイザー社またはモデルナ社のワクチン接種後の抗体量と副反応の関連について調べたところ、ワクチン接種後に発熱や悪寒、筋肉痛などの副反応が出た人の方が、注射部分に痛みや発疹があっただけの人や副反応が全くなかった人に比べて抗体反応が大きい傾向があったそうです。
また、日本国内の335名を対象に、ワクチン2回接種後の抗体量と副反応の関連を調べた研究*2によると、接種後に発熱を認めた人は発熱がなかった人に比べて抗体量が高い傾向があることがわかっています。なかでも、38度以上の発熱を認めた人は37度未満であった人に比べて、平均約1.8倍の抗体量であったことが明らかになっています。
抗体量だけでなく、抗体産生に関わるヘルパーT細胞やキラーT細胞と副反応の関連について調べた国内の研究*3によると、ワクチン接種後にヘルパーT細胞の反応が遅い人では、キラーT細胞の活性化や抗体量だけでなく、副反応の頻度も低いことがわかっています。
つまり、今まで報告されているいくつかの研究結果を見ると、新型コロナウイルスのワクチンで副反応が出やすい人の特徴は、ワクチン接種後に抗体産生に関わる細胞の反応が早く、抗体量も多い人と言えます。
引用文献
*1:JAMA Netw Open. 2022;5(10):e2237908. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.37908
*2:Vaccine Volume 40, Issue 13, 18 March 2022, Pages 2062-2067 doi:10.1016/j.vaccine.2022.02.025
*3:Nat Aging 3, 82–92 (2023). doi:10.1038/s43587-022-00343-4